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一覧へeco-café MIN Tニュースレターvol.6

ニュースレター投稿日時2016.12.06 13:52

I N T

わたし、

わたしたち

不純な動機からだった…

 建築を目指したのは不純な動機からだった。子どもの頃から幾何学的な図形が好きで、高校時代にはデッサンの教室に通いながら美大を目指していた。しかし、両親からは芸術では生活はできないと諭され、「そんなものかな?」と安易に路線変更。別の道を模索することになった。その中で、なんとなく選んだ建築学科の授業はほとんど興味が持てず、振り返っても中身は何一つ覚えていない。実際、建築は学ぶ範囲が他の理工系の学科より広く、自分にとっては作った物を見てもらうことだけに関心があって、それ以外のことには興味が持てなかったからだ。その中で唯一、一生懸命に取り組んだ授業は設計製図であった。しかし、うまくイメージを形にすることがなかなかできず、いつの間にかに落ちこぼれになっていた。このような中で、人生の転機が訪れたのは大学4年の研究室所属の時で、建築設計の先生に出会えてからだった。この研究室には学問と実践があり、常に先生と学生との間で議論がなされていた。これは私にとって、とても刺激的で楽しい時間だった。先生が請け負った仕事にも関われて、設計に魅力を感じることができた。このおかげで、いままで取り組んでもうまくいかなかったイメージをかたちに変換する術が何となくわかり始めて、この道に一筋の光が見えた。だが一方で、同校の大学院に進むにあたっては、いままでの成績があまりに悪かったため、外部の学生と同様の入学試験を受けなければならなかった。しかし、これもまた今となっては良い思い出になっている。

建築界の課題

 MINTとの取組みは、私にとってはいままでにないものだった。これまで蓄積した知識や経験では上手くいかないものであったからである。建築の歴史を遡ると、日本の大学に建築学科が作られたのは明治時代からである。建築は、西洋から知識や技能を吸収し急速に進化した分野の一つである。例えば、1964年の東京五輪で丹下健三氏が建設した代々木体育館は今でも世界に誇れる建造物である。わずか100年で西洋と肩を並べる技術を学んでいたことになる。一方でこの歴史の中で、いわば「本来の建築」と「デザインとしての建築」が解離してきたのも事実。本来の建築とは、その土地の文化や風土にあわせ、そこにある固有の資源を活用しながら作るものである。だが近代建築の多くは、建築家の表現としての建築であり、建築家がスティタスを目指す手段の一つにもなっている。その偏った軸足の中で、現在の建築に対する考え方が揺らぎはじめ、原点回帰と言うべき課題が生じている。東日本大震災をきっかけに、今後の建築界はより社会に寄り添い、貢献するものを目指すべきという声も多く聞かれるようになった。今後の建築界は二極化することも考えられる。

 こうした議論が展開される中で、私自身はこの両方を目指すべきだと考えている。実際、社会に貢献する建築が未来の理想のように感じるが、一方で、いままで建築界の先人が積み上げたものは、美学的側面、思想的側面において研ぎ澄まされた価値があるとも言える。この両者のバランスをどう考えるか?例えになるかわからないが、私が大学内に建設した図書館は、学園創立100周年記念という目的を重視し、ある意味シンボリックでデザイン性の強い形を意識して設計した。色々な意見はあるが、それはそれでよかったと思う。

学生がキープレイヤー?!

 その一方で、MINTの取組みはそれとはまったく反対の考えで取り組んでいるプロジェクトである。ここでの目的は障害者とその支援者が気持ちよく働け、お客さんが寛げる空間にすることであって、まず使い手の立場を重視した設計にする必要があると考えた。一方で、自分たちとしてはデザイン面でも充実させたいという気持ちは当然あった。双方をコントロールできるあり方とは何か、を学生と何度も議論し考えたのがこのMINTだ。この議論の中で埋もれてしまったアイデアは山ほどあり、最終的に選ばれた僅かなものだけが日の目をみている。さらに実際に使い始めると、次の課題や要望がうまれて、ミントとの継続的な関わりが必要であった。そもそも建築家は完成後に家主と関わることはほとんどない。この仕事は、設計や施工の期間中に多くのエネルギーを費やすため、終わったら現場から離れたくなるのが本音だ。その中で、私たちはミントとの間で継続的な対話や議論の積み重ねができている。これは「本来の建築」と「デザインとしての建築」が融合していくためのヒントにつながるものではないかとも思っている。

 ここでの大事なプレイヤーは学生だ。専門家と一般人を継続的につなぐためには、専門的な知識と一般的な感覚の両方を備えていることが重要である。学生とは、そのどちらも半分くらいずつ満たしている不思議な存在だと思う。実際、ミントと私との間で板挟みになり大変な部分もあると思うが、この融合を実現する上でのキープレイヤーだと考えている。もちろん学生にとっても、イメージを具現化するチャンスであり、試行錯誤できる貴重な機会でもある。この新たな循環をこれからも作ってゆきたい。

 

ニュースレター6 ①

 

 

 

 

↑ 日本工業大学図書館

日本工業大学  

小川次郎 教授   

東京工業大学大学院を修了し、その後一級建築士として活躍。2003年には代官山インスタレーション2003最優秀賞を受賞。

1999年より日本工業大学建築学科にて建築設計、建築意匠、建築論を教えている。

 

ニュースレター6 ②

 

 

 

 

↑ 小川研究室

(左から2番目が小川先生)